中国映画『Tiny Times 1&2』(2013年)

中国の経済成長の著しさは、私などが吠えることではないとは思うが、映画界の発展も、もうあんぐり びっくりの域である 。ハリウッドが中国圏に媚を売るようになって久しいが、中国映画界の2000年頃からの著しい発展を振り返って、虚構を見たような気になっていると笑われてしまう。あれからすでに13年も過ぎていて、それは、目覚ましい勢いで決して虚構ではない。中国の観客は、もう著名名監督製作の史劇や、マーシャルアートの初期作品にすっかり飽きてしまっているそうで、最近のヒット作品は、ハリウッドヒット作品よりも、もっと顔見知り俳優が出演する地元的かつ中国的な内容の作品を好む現象なのだそうだ。今日の中国の映画観客は,基本的に若く目も肥えて、先に述べたように都会的よりもむしろ地方的(中小都市的?)で女性が多数派で、かつ近代的だと云う(つまりは、封建的でも、田舎者でも、遅れているのでもない)。中国のネット社会の大きさは、中国映画界よりずっと巨大な存在らしく、我々外国人が、そこを把握出来ないでいると、ハリウッド映画スタジオを指してでも、「遅れているよ」と言われかねない、と云う成長ぶりなのだと云う。

地元製作の映画の方が好まれれば、製作本数も増え、中小都市での観客が増えれば、上映劇場数も増える。当たり前に、映画ジャンルも増えて行く、と云う訳だ。多産されれば、自国の映画の監査は勿論、ハリウッド映画への規制(上映時期、本数などに規制がある)も和らいで来るそうで、利益は少なくなっていても(去年より21%落ち込んだ、と云う数字も有る)長い目で見れば、「良い方向に向かっている」、と見る動きもあることを付け加えておく。

しかし、中国の映画製作の技術テクノロジーは、「たいしたことないだろう」なんて思っていたら、笑われてしまいます。撮影も編集も洗練されてテンポが速く、素晴らしい水準になっていると、云う。勿論中国圏のコラボレーションだって、もう珍しくない。珍しくないどころか、香港、台湾とのコラボレーションは日常茶飯事のことのように普通になってしまっている。例えば,今日紹介する『Tiny Times1&2』は、俳優も半分以上が台湾からで、撮影スタッフ軍も台湾が固めている。最近の中国映画の方向性がどんなものか、と云うと、例えば、北海道を中国人に有名にした2009年の『If You Are The One』、その後、2010年の都会の女性を描いた『Go Lala Go 』、2013年の海外で出産する女性を描いた『Finding Mr. Right』 、コンピューターを屈指した若いエントレプレナーや成功者を描いたこの『Tiny Time 1&2』に見出すことが出来るはずだ。

『Tiny Time1&2』は、初日の収益が1千110万ドル(ドルです!)で、18日間で7千6百10万ドル稼いだと云う。中国の若い観客(平均年齢、21.7 歳)を相手に、ヒットする魔法のフォーミュラが存在するとするなら、このような映画じゃないかな、と思わせる。「ミュージックビデオのフォトコラージュみたい」だと、散々貶されていたのも分かるが、漫画のような設定に、美男美女が10人くらい出たら、もう、目が点になる、星になる。眩しさを増すようにブランド品も目一杯、3000着以上の衣装替え、背景には最近流行のマンドポップ(マンダリン語のポップミージック)が流れているのだ。観る者をすぐに恋したい気分に妖しく誘う。主人公は大学の同級生の4人の女子たち。それぞれが大都会上海で恋や成功夢見る、と云う設定なの。女子達を主人公にしたことで、女性からの共感を狙った、より身近なストーリーにしたかったに違いない。

恋は成就しない、メランコリーなこの映画は、『Tiny Time 2』で、病気、死、裏切り、見せかけの友情などと極端にシビアで現実的なムードに急ダイブしてしまう。が、かえってそれが、シニカルな現代中国人から支持を受けたのかもしれない、とも勘ぐってしまいます。粗筋もあえて書きません。ストーリーは、あってないようなものです。ちょっとレオン・ライに似たLi Yuemin(李 銘)、監督の分身と思われるキャラクターにChen Xuedong(陳 學冬)、台湾からのRhydian Vaughan(鳳小岳)もKo Chen-tung(柯震東)も中国本土人の準主役2名もキュート、ハンサムです。若者でない視聴者には、それだけ、の映画かもしれません。現在30才の中国若手人気作家の代表格と云われるGuo Jingming(郭敬明)が、原作、脚本、監督を務めています。彼は、20才の時に『幻城』と云う本を書いて、まさしく一晩で有名になってしまった人物だそうですが、今中国で何が受け、何が売れるかを、一番知っていた男だ、と云うことを証明した形になりました。

非現実な設定ではあるし、映画としては素晴らしい出来ではないのですけど、大ヒット作ですので、一見の価値はあります。娯楽にどうぞ。

バンクーバー新報:2014年,1月9日