『Journey to the west : Conquering the Demons』(2013年)

ちょっと当惑している。この映画は、中国で5200万人を動員した興収第1位、世界12カ国で上映されたと云うメガヒット作品だ。11月末に日本で上映の予定だったはずで、監督の周星馳(チャウ・シンチー)が日本に6年振りに来日して記者会見を開いている。が、その後ヒットの噂を聞かない。まだ日本公開(『西遊記〜はじまりのはじまり』)1ヶ月も経っていないのに、何処を探しても、興行成績上位に入っていない。やっと見つけたら、九州の映画館一件(だけ)が上映中だそうだ。

私は、西遊記を恥ずかしながら読んだ事が無い。主人公は、日本のテレビの影響か、女性なのか?と云うイメージがあったくらい。中国の4大名著の一つなのに、何と云う貧しい知識。が、この映画は誰もが認める香港のコメディ王の新作だ。そんな堅苦しい背景は要らない。けれど、今回は監督としてだけの参加である。だから、日本で人気がイマイチだったの?と思うけど、彼が出なくても、彼のユーモアのセンスは健在だし、なんて言ったって、黄渤(ホアン・ボー)が孫悟空として、ジェット・リーと親子を演じた『Ocean Heaven』(2010年)の文章(Wen Zhang)が玄奘(唐三蔵)として出演、そして、勿論周星馳の演出が、多いに笑わせてくれる。コメディって国民性が反映し、日本人から笑いを取るのは外国人には難しいからかな? 周星馳は特有の下ネタジョークが多いからね。でも、下ネタって結構万国共通よね。彼の作品には必ず主人公が心を奪われる女性が出て来るが、今回は台湾のセクシー女優、今や、中国圏のセクシー女優、の舒淇(Shu Qi、決して演技派とは言われない女優だが、2008年の中国の演技派グォ・ヨウ(葛優)と共演した『If You are the One』(『非誠勿擾』)から知名度をぐんと上げている)が、文章演じる玄奘のお相手役。豬八戒は、台詞が一つもないのだが、プラスチックを顔に被せたような顔で、お肌真っ白の美青年、中国本土俳優、陳炳強(チェン・ビングチエン)。沙悟淨(水妖)も、これ又台詞ゼロ(妖怪だから、二人共喋れない?)も、知的な雰囲気な香港の俳優(元劇作家らしい)李尚正(Lee Seung Ching)を起用しているが、彼の表情には笑ってしまった。実は私、一年も前にこの作品を観ている。が、どうも英語字幕に追いつけなくて、面白い、とは思えなかった。ところが、最近のホアン・ボーの中国本度稼ぎ頭#1 の人気に唖然としていた矢先、この作品に彼が出ているのを思い出して、再度観賞した訳です。彼は、どちらかと云えば、背も低く、顔が大きく、手足が短くて、脇役のお顔をなさっているの。先出のグォ・ヨウもですけどね。中国では、国民的俳優たるもの、中味の魅力(お笑い?)が重要らしいのです。「男は顔じゃない」と云う感じでね。その彼の作品の中でも、この『Journey to the West』は、彼の魅力が十分発揮された作品だと思うのですよ。感心しちゃったくらい。出演者には、他にも、本物の少林寺拳法32代目と云う行宇(Xing Wu)が、北斗五形拳役。私は、彼を台湾の少数民族の俳優と勘違いしていたくらい、どこか、素朴で愛嬌の有るお顔をしています。彼の、アンデイ・ラウ主演の『新少林寺』(2011年)での印象が強過ぎたらしいのです。空虚公子役は、台湾のポップスター羅志祥(Show Luo)。台湾のテレビでMCを務めて人気者だけど、普段からコメディにぴったりと云う物腰で明るい感じなので、場違いな感じは全然しません。でも、意外性は全く無し、ですから、彼の俳優としてのキャリアには、損かもしれません。そして、趙志淩(Chiu Chi Ling)は、非常に暖かい人間味がある71歳の、香港の俳優。「優しくしてね」の台詞に大笑いしました。

私は昔から、Silly な周星馳の作品が大好きなので、全て観ているのですが、周星馳が凄いのは、哲学的でも(笑われるかもね?)あるところじゃないか、と思うのです。『西遊記』を書いたと云う明時代の吳承恩(Wu Cheng-en)の原作とは、勿論かけ離れた脚本、粗筋ですけど、大作でCGも凄いので、最初の15—20分は、もう、息を呑みます。映画は芸術だ、じゃなくて、「映画はエンターティンメントだ」の一言に尽きる作品です。粗筋は「河妖が小さな漁村を襲います。そこに現れるのが悪魔(妖怪)ハンター玄奘。<童話300曲>を手に歌いだす。失敗に終わると、そこに、美しい別の悪魔(妖怪)ハンターが現れ、退治してくれる。すっかり自信を失った玄奘は、彼の師匠に会いに行くが、師匠に<悟り>の為にと再び送り出される。」。子供と一緒に観れるかって?ウ〜ん、やっぱり、大人のエンターティンメントかな。



バンクーバー新報:2015年1月8日