韓国映画:パート3

 韓国映画の“ニューウェーブ”は、1967年に“スクリーンクオータ制”と言う制度が設けられたために、こぎつけることができた“ウェーブ”でもあると思います。この制度は「一年に最低何日、国内の劇場で国産映画を上映して、自国の映画市場を確保する規制」の事をいいます。映画製作数が多い国は何処だと思われますか? 1位はインド。ボリウッドです。2位はハリウッド、アメリカ。3位は香港の順です。が、上映興行収入が一番多いのは、ダントツ、ハリウッドです。言わずとも、韓国映画もハリウッド映画に押されて来ています。今は「年間73日」だそうですが、この“クオータ”制があるのと無いのとでは、映画のあり方が自ら違って来ます。韓国が、国内映画の観客動員数をある程度確保出来るのは、政府が規制を定めている故で、40年も続いている制度を、そのまま改正せずに、今の資本主義の韓国映画界にそのまま施行しているのではありません。今までも幾度か改正されてきましたが、それでも、この制度があったお陰で、映画のコピー、密売、海賊版の市場への放出を最低限に食い止めていられ、映画上映後の健康的なDVD売り上げも確保されると言うものです。

 この制度に反対する意見としては、現在のこのシステムでは、「質の悪い国産映画を、数合わせだけの為に多産する可能性があり、お金と人材の無駄使いである」と言うものだそうで、「国産映画の品質を上げる事が、また韓国映画界を剛健にさせる重要な要素」であり、「クオータ制は反対に生温い安易な市場を確保していて、悪影響である」。世界映画市場で、韓国映画が“コンペェティティブ”でいるためには、「やはり国内での競争が厳しい環境に置く事によってのみ生まれ、それ以外ない」、と言う考えのようです。この“クオータ”制は1927年にイギリスで取り入れられた制度だそうです。現在、イギリスの他、フランス、ブラジル、パキスタン、イタリアなどが、このシステムを導入しています。では、大きな失敗例を一つ。1994年に、メキシコはNAFTA(North American Free Trade Agreement)をアメリカと結んだ時に、ハリウッド映画に飲み込まれてしまう事を防ぐ為にあった“クオータ”制を取り払わざるおえなくなります。その結果、多い時には年間100本以上も製作していたメキシコの映画産業は、その後10年間に製作された数、なんと平均年4本くらい(本当かいな?)と言うところまで落ち込んでしまった、と言われています。

 最近の映画で気に入ったのは、美しいイ⋅ジュンギとガム⋅ウソンの『 King and the Clown』(2005)。日本ではヒットしなかったのが、不思議です。ガム·ウソンの愛情の表現は,表情と目線だけであるのに、参った、とつぶやいていました。違和感が全くありません。イ·ジュンギはこの作品前までは、新人に等しかったのですが、この作品で演技力、スター性を認められる事になりました。“女より美しい男”と言われましたが、映画での彼は本当に美しいです。大柄ながら、身のこなしが艶かしい。この作品は同性愛が暗示されていますが、1千2百万人が見たそうで、大ヒットしました。映画の良さを考えると、同性愛は大した事ではなかったようです。これは、同時に、韓国人が絶対受け入れる事はないと言われた分野ですが、この映画がなんなくバーを超えてしまいました。最近チョ·インソンとチュ·ジンモの映画『霜花店』(2008)も大ヒットで、もっとオープンな表現で話題になっていますが、これも難なく、美しい男優二人のお陰で、韓国人は受け入れた、と自らの許容度に驚いている節さえあります。映画における性的表現のタブーは、何処の国でも小さな問題では無い時勢ですが、韓国も2005年の『王の男』からたった3年で、予告編に半裸の男優二人が登場しています。また、外国映画の成人向け映画が公開される度に、韓国映画の性的表現のレベルも上がり(オープン?露出度の加速化?)表現方法も多様化したと見られています。ただいまの話題は、米国映画『ショートバス』(2006)で、「青少年観覧不可」と「わいせつ物相当」の間に、「制限上映許可」の等級が必要か否かの論争が大法院(日本の最高裁判所に当たる)で起きている事です。
 
 俳優パク⋅ヘイルが良い、『Memories of Murder』(2003)と『Rules of Dating』(2005)。前者は実際に起きた強姦殺人事件を映画化した作品です。ソン·ガンホが刑事役ですので、コメディ?と勘ぐってしまいますが、彼のお陰で暗い話も少しは陽が当たったかもしれません。観客にも評論家にも受けが良かった秀作です。 後者は、大したストーリーも無いのに、バク·ヘイルだから面白い映画です。カン⋅ウースック監督の“公共の敵−3部作”:『Public Enemy』(2002)、『Another Public Enemy』(2005)、『Public Enemy Returns』(2008)がお薦めです。その他には勿論、パク⋅チャヌク監督の ”復讐−3部作“、そしてキム⋅キドック監督の作品ですが、これは、かなり好き嫌いがあると思いますので、リベラルを自称する映画好きな方にだけ、お薦めと言うことにしておきます。コメディでは、『200Lb Beauty』(『カンナさん大成功!』日本題)、日本の漫画が原作で、メーキャップに力が入ってます。相手役は『ハッピーエンド』のチュ·ジンモ、楽々自然体です。これからも、面白い映画が公開を待っています。お楽しみに。

バンクーバー新報:2009年 4月2日