香港映画 パート1

 現在、繁栄期を過ぎた“post-boom”期にいるのが、香港映画です。1990年代半ばには、すでに鑑賞券の売れ行きは、がた落ち、それに伴う収益は半分まで下がったと言われます。香港の中国政府への返還での市場拡大という思惑は外れ、映画製作数も1900年代の末には、やはり半数以下の年間100本程度にまでなります。(とは言え、多くは”カタゴリー3”、大人のみ、のソフトコアポルノ映画だそうですが)これに拍車をかけるように、アメリカからの大ヒット作品が映画売り上げの上位に入るようになります。同時に、ジャッキー·チェン、ジェット·リーなどのカンフースターが、アメリカで注目されるようになるのですが。

 香港は長い間イギリスのコロニーであったので、中国本土や台湾などを較べると、政治的、経済的にも、かなり自由が効きましたから、中国語圏での映画中心地としての地位を欲しいままにして来た、と言っていいでしょう。ハリウッドが世界的にも幅を利かせるようになる1980年代から1990年代の初め、香港映画界は、中国語圏のアジア全域を圧倒的に支配した映画繁栄期でした。今でも、映画産業国第3位、輸出国としてもハリウッドに次ぎ、2位です。

 香港映画は、何と言っても、“香港アクション映画”で知られ、アメリカのアクション映画は大半“香港アクション映画”に影響されていると言っても、けっして過言ではありません。香港映画の熱心な信者も多いです。たとえば、マーティン·スコセーシィ監督やクウェンティン·タランテーノ監督などがいます。カンフー映画になると、アメリカの一般市民にも十分に浸透して、ジャッキー·チェンの名前は良く知られており、個人的なヒーローに挙げる子供も多いのでは? そして当然ながら、香港もハリウッド要素をふんだんに取り入れて、世界的な要求に合わせています。“1分に1回のスリル”、速いペースにクイックな編集。観客の注意力を外さないコツには素晴らしいものがあります。また、アクション「振り付け師」は、今や世界中で引っ張りだこです。

 “スターシステム”が根強いのも、香港映画の特徴です。香港映画初期の頃、本国の京劇のスターを連れて来て撮影した時代から、現在は、広東語香港ポップ音楽界との親密な関係があげられますが、ポップと映画共存は、香港ならではとも言えます。映画スターは同時にポップスターであり、ポップスターは映画スターでもあるのです。アンデイ·ラウ(劉徳華)、レオン·ライ(黎明)、アーロン·クォック(郭富城)、ジャッキー·チュン(張學友) の ”香港四大天王”、イーキン·チェン、ザ·ツイン、ミリヤム·ヤン、ケリー·チャン、ジョーダン·チャン(陳小春)とリストは長々と続きます。

 個人的には、輸出を考慮にして口パクのサイレントで映画を撮影していた後、マンダリン語を放棄して、広東語だけで撮影するようになってからの、香港映画。ここから、香港映画はおもしろくなっているように思います。どちらにしても、香港映画は、第二次世界大戦後からが、事実上、“香港”映画の始まり、と私は見ています。この60年間の歴史は、京劇から、武侠映画、コメディ,ブルース·リーのカンフー映画、ショーブラーザーススタジオ、ゴールデンハーベストスタジオとジャッキーチェン、そして、香港映画の繁栄期、の流れでやって来ました。洗練されたテクニカル技法、ビジュアルスタイル、先端をいくスペシャル映画技法で大衆が好むコメディ、アクションが納められて行く、それも、時には、1本の映画にです。ハリウッドのコピーと言われずに、独自に中国的な価値観、文化、習慣、伝統などを残した為か、エネルギィシュ、スーリアルなイマジネーションを感じる香港の映画界でした。現在は“低迷期”すなわち、“香港映画界の危機”と見られています。そして、これから、数年が、(数十年にはならないような気が、個人的にはしています)別の何かに変わる“変換期‘と言われるか、アジア全体を結ぶ大きなハブとしての香港、”パンーアジア期“の中心地と呼ばれるかどうかの瀬戸際なのかもしれません。
 
 香港映画が世界へのアピールを掴んだのは、やはり、武術映画ではなかったか、と思います。これには、アメリカ生まれ、香港育ちのブルース·リーの出現が大きかったはずです。彼以前にも、少林寺拳法なるカンフーも有名ではありましたが、ブルース·リーがカンフーを世界に通じる名詞にしたきらいがあります。現在ではジャッキー·チェン、ジェット·リー(李連杰)、ドニー·エン(甄子丹)、サモ·ハン(洪金宝)などが有名です。スター達も香港映画の繁栄期、この時期に多産しています。ジャッキー·チェン(成龍)以外に、チョウ·ユンファ(周潤發)、トニー·ルング(梁朝偉)、ステェファン·チャウ(周星馳),マギー·チェン(張 曼玉),ミッシェル·ヨー(楊紫瓊)などは世界的にも有名です。

 ざっと、スターの名前だけ沢山上がってしまいましたが、次回は映画の話をしましょう。ポスト繁栄期香港ではありますが、アジア各国のように、1990年代後半から、2000年代は良い作品が沢山生まれています。<続く>


バンクーバー新報:2009年、6月18日