香港映画:パート2

 1990年代後半から、2000年代、活躍の目立った監督と言えば、ジョニー·トー(Johnnie To、と英語で記しておきます、捜し易いように)監督、アンドリュー·ラウ(Andrew Lau)監督、そして、コメディアン周星馳(Stephen Chow) 監督ではないかと思います。80年代初めから、90年代初めが香港映画の“繁栄期”だと言われていますから、私のようにこの頃、王家衛(ウオン·ガーウエイ)や、吳宇森(ジョン·ウー)のファンになられた方も多いと思います。この時代の香港映画は、確かに輝いています。しかしながら、最近幾本かの香港映画もこの時代に負けるとも劣らず、だと私は思います。今は、かつてのゴーデンエイジの輝きはないものの、今まで以上に磨きをかけられたアクション映画、アジア各地から参加するパン·アジア的な俳優軍、演出軍とのコラボレーションは確実に進んでいます。そして、少し意外なのですが、夢を運んで来た映画界は、現実的な香港を描写し始めているような気がします。

 ジョニー·トーは、アクション映画だけでなく、コメディや、ロマンチックコメディなどでも、多くの人気高いヒットを納めている監督です。黒社会(香港マフィア)を描いた”the Mission”(1999)、アンソニー·ウオング、フランシス·ン(吳鎮宇)、ロイ·チャング、サイモン·ヤム(任達華)、スエッ·ラムが出ています。一気に見られます。サスペンス、バイオレンス(は、やや仕方ないと思ってください)、スリル満点です。娯楽、娯楽、娯楽の一言です。警部が主人公の『Running out of time』(1999)、『Running on Karma』(2003)、爆弾魔と特別警察を描いた、『Breaking News』(2004) 台湾人のリッチー·レンがいいです。ケリー·チャンはクールなニゴシエーター役。そして、2本とも“カテゴリー3”に指定された『Election』(2003)と『Election 2/Triniad election』(2006)、かなりバイオレンスですが、リベラルな人にはぜひ見て頂きたい香港マフィア映画の傑作、と私は思います。演技の幅が広いトニー ·ルング·カーフェイ(梁家輝)と、2の方では、いつも温和なプレイボーイ風、日焼けハンサムイメージのルイス ·クー(古天樂)が豹変、凄いです。サイモン·ヤムも悪役を随分粉していますが、さすがに『Full Contact』(1992)でゲイの裁判官を演じたのを見てから驚かなくなりましたが、モデル出身のハンサムはここでも、貫禄です。何よりも、暗黒会を描く映画は以前にも多いのですが、『Election』シリ―ズ2作は、これからの中国本土と香港の関係を描いていて興味深く、『Exiled』(2007)は、マカオを舞台に『the mission』の俳優軍にリッチー·レン(任賢齊)を加え、足を洗おうとするギャングメンバーと黒社会を描いています。もうエキサイティングです。ガンシーンも見事ですし、ショット、カットもスタイリッシュで、格好いい現代版ウェスタンです。ひたすら娯楽映画です。

 マーティン·スコセーシィ監督のアカデミー受賞作『Departed』はマット·デモン、レオナード·ディカプリオとジャック·ニコルソン主演の映画ですが、『Infernal Affairs』(原題『無間道』、2002)、『infernal Affairs II』(2003)、 『Infernal Affairs III』(2003)の『Infernal Affairs』3部作のリメイクです。外国映画のリメイクでアカデミーを受賞するのも初めてだったそうです。監督は、アンドリュー·ラウとアラン·マックです。私は『Infernal Affairs”』(1を指す)は香港映画の傑作の一本と考えています。俳優軍も豪華で、最初はそれを前宣伝に利用したようですが、プロットのオリジナル性と、軽快なテンポで語られて行く、ストーリーの語り口は素晴らしい、の一言です。40代半ばにして、自他ともに認めるアイドルである、アンディ·ラウ(劉紱華)の悪役が冴えています。『ラスト·コーション』のトニー·ルング(akaトニー·レオン、梁朝偉)は、ここでは暗黒会に潜む警察のもぐら役。アンソニー·ウオング(黄秋生)の警察本部長、エリック·ツァング(會志偉)の暗黒界のボス、ケリー·チェンが、トニー·ルングが恋に落ちる精神科の女医。サミー·チャングが、アンディ·ラウの妻(夫の真の正体を知らない、純情な)を演じています。原題の“無間道”とは、仏教での一番底辺に属する深い地獄のことだそうです。カットもテンポもショットも唸りますが、なにより、トニー·ルングの戸惑ったような存在感、(それこそ、これが彼の演技力であるのですが)と、アンディ·ラウの意外な配役と、その信憑性と言いますか。悪役をむしろ好んで演じる香港俳優達を見る楽しみ、を生んでくれます。ちょっと前までの香港映画界は、多産ですから、出演作品が100本以上なんて俳優も珍しくない訳で、それこそ、いろんな役で楽しませてくれてもいいじゃないか、と思うのですが、それでもそう簡単ではない事のようです。私は悪役を楽しむタイプでして、そこには美学まで感じます。アンドリュウ·ラウ監督には、スピンオフの映画でシリーズ化された映画に、コミックブックを原作にした『Young and Dangerous』(1996-2001) があります。ポップ界のスターでもあるイーキン·チェング(鄭伊健)とジョーダン·チェン(陳小春)が主人公です。これは、裏の黒社会の若いメンバーを描いて、人気が高く、11本もの続編が全てヒットしました。キャストが豪華で、ロイ·チャング、フランシス·ン、サイモン·ヤム、アンソニー·ウォングなどの他、サム·リー、ニコラス·ツェや、シュー·チーなどが若いメンバーで出ています。
 
 ステェファン·チャウこと周星馳も現代香港のスーパースターです。コメディカンフー映画の奇才。どうしようもない下ネタジョークも作品の中には多いのに、子供に見せても有害性を感じさせない、と言う、好感度大の俳優でもあります。<続く>

バンクーバー新報:2009年,7月9日