香港映画:パート3

 家族で見ても文句無く楽しめるのは、ステェファン·チャウ(aka チャウ·シンチー、 周星馳 )脚本、監督、主演『Shaolin Soccer』(2001)と『Kung Fu Hustle』(2004)です。ドタバタ振りで笑ってしまうため、結構凄い事になっていても、笑い転げてしまいます。新作”CJ7/長江七号”(2008)は、手放しで「スイート」と絶賛出来ます。男の子が主役ですが、演じているのは女の子で、知らなければ全く分かりません。
 
 『Kung Fu Hustle』は、撮影の3分の2はファイティングシーンに費やされたそうですが、出演者も、1970年代のアクションスター、ブルースリーのスタントダブルだったユエン·ワッが”Pig sty Alley”(豚小屋街)の家主役、くわえタバコ妻女家主には、ユエン·チュー。「Beast」役には、周星馳の少年時代の武道ヒーローだったルング·シュー·ルング。彼は1970年代、1980年代を通して、ブルースリー、ジャッキーチェンに次ぐ、「Third Dragon」と言われた人物だそうで、15年振りにスクリーンに戻って来てくれたそうです。他にも、有名な映画監督が二人も、カメオ出演(意外な所で、ちょっと出演する事)していますので、目を離せません。周星馳は、香港では20年以上も活躍している大スターで、映画監督としても、10年以上の経験があります。彼の映画が今までウェスタン文化にアピールしなかったのは、彼独自のコメディセンスが、中国人文化の中で生きるものであったからだ、と言われていますが、来るべき時が来たのかな。本来はだじゃれも、語呂合わせも、二重の意味も広東語が分かる視聴者がいて、初めて面白いものだそうです。

 その彼が、カンフー物を扱って初めてアジア圏を飛び出した『Shaolin Soccer』は、なんとメインキャラの内3人は、素人を使っているのですよ。元プロダクションマネージャーだったり、脚本家、ダンスの振り付け師なんてのも。彼らは、そのまま、『Kung Fu Hustle』にも出演しています。6人兄弟のデブの末っ子「Weight Vest」役のLam Chi Chungなどは、周星馳の脚本家でしたが、俳優として参加、その後、別の監督の映画にも俳優として参加しています。彼の作品に欠かせない、ベテランNg Man Tat(吳 孟達 :ン·マンタ)は、ここでは、「Golden leg」コーチ役で、強烈な存在感です。香港では、 香港独自の「Mo Lei Tau」コメディ(脳無し、意味無し、行き当たりばったりとか言う意味だそうです。)で、周星馳のサイドキックで有名な事から、そして、実際に「おじ役」が多いため、“タットおじ”(さん)とさえ呼ばれているそうですが、イメージが定着してしまうのを怖れてか(喧嘩別れをした、と言う説も)、『Shaolin Soccer』から、周星馳と共演をしていないようです。 しかし、非常に幅広い演技で有名な俳優だそうですから、他の映画で彼を見る事が出来るでしょう。外見はいかにも誰かのおじさんで、人懐っこい笑顔が最高です。中国本土からVicky Zhao(趙薇、現代中国を代表する若手女優の一人)が、何故か顔には吹き出物が一杯の周星馳の恋の相手役になり、後に坊主頭で登場します。
 
 香港映画「ポスト繁栄期」も10年以上も経ってしまいました。香港映画界の位置の再認識や、時代性を問われる時が来ています。2000年代に出された、ジョンニー·トー監督の前出の『Election』2部作などは、これからの香港の将来への憂いも漂っている点で、とても興味深いものがあります。黒社会も、香港の中国返還後、土地などの資源を求めて、中国本土に進出して行かなければならなくなる。それも、香港黒社会だけを相手にするのはなく、中国本土を縄張りとする全国規模の黒社会が存在していないならば、その土地の地方警察との交渉、協力、縄張りの奪い合いを繰り返していく。香港は限られた土地に発展し切ってしまった過剰都市です。これからは、ギャングの死活問題も、中国本土が決める。新しい工場を建てたり、リゾートをオープンしたりするには、土地がない。香港という島であることのメリットが、今までは、島であるために、中国からの直接影響を受け難いと言う長所であったのに、突然、発展の限界リミットとして、存在し始める。

 戦後60年以上経って、香港は中国語圏の映画の中心地になりました。この時期こそ、香港映画が変わらなければいけない時が来ているようです。そろそろ、香港のローカルな社会問題などを反映した、映画の誕生が望まれるところです。

 中国に返還した事で起こっている数々の問題。一時、ブームで押し寄せた、香港への民族大移動。土地改革によって中国本土で 土地を失った農夫達などは、どうしているのでしょうか? 彼らは今、どう言う状態なのか。それでも、香港に押し寄せていると聞くのは、女性達。僻地、農村から稼ぐ為に、夢の為に香港にやってくる中国本土の女性達。愛人の地位を求めて、大都会に集まる女性達(北京、上海、などの他に香港、台湾)もいると聞きます。人身売買で売られたように都会にやって来る女性もいるかもしれません。
 
 それでも、香港はアジアの夢を描き続けるか? 今のままのスタイルで、パンーアジアの中心地になれるのか、どうか?今後も香港映画から目が離せません。

バンクーバー新報:2009年、8月6日