『人のセックスを笑うな』(2008、日本)&『慶祝!私達の愛』(aka『Viva! Love』2008、韓国)

「ラブストーリーを紹介しないのか?」と先日言われました。かねがね「路線が違う」などと、韓国ドラマファンの方々にも言われていたので、お待ちかねのラブストーリーをご紹介しましょう。今回の2作の共通点は、ラブストーリーである事と、年齢差が20歳以上、と言うもので、女性の方が年上です。

『人のセックスを笑うな』は、井口奈美監督。監督としてはこの作品は、まだ3作目、録音助手として、様々な映画に参加して、処女作『海猫』(2001)は4年掛けて製作したそうです。このタイトルは小説の原作者、山崎ナオコーラ氏が付けたものだそうですが、良いタイトルです。忘れないでしょう。が、題名とは裏腹に純愛(こう言う言い方、私はしませんが)映画です。この題名ために、映画宣伝はプライムタイム(大人向け?と言う意味かな?)に放送されたそうです。

 あらすじは、ある地方の町の美術学校、39歳の非常勤講師ユリ(永作博美)。その彼女を好きになってしまう、19歳のみるめ(松山ケンイチ)。その彼に片思いする「えんちゃん」(蒼井優)、その彼女に片思いの「堂本」(忍成修吾)を描いています。ユリは実は結婚していた、と言うのが一番大きな発見ですけど。何も大きな事件は起きない映画です。だからと言って、つまらないか、と早合点するのは損です。“或る愛のかたち”を覗き見してるような映画ですから、少なくとも、好奇心は満たしてくれるはずです。

 なんと言っても、この映画の魅力は主演者の二人にあります。永作博美は、タイプ的に、南果歩、周迅と重なり、童顔でチャーミングです。年齢を感じさせない“若さ”が主人公とそっくりで、とても素敵な自由な女「ユリ」を演じているし、松山ケンイチも「カメラの前が現実?と思ったくらい自然体で演じられた。」と発言しているくらい、“本当にユリに恋愛してた”のでしょう。そのくらい、松山ケンイチもかわいいですから、この映画を見て、「みるめ」君に恋する年上の女性も多いはずです。だが、実際に20以上も年下の男性と恋愛するなんて事は、現実には少ないし、尚かつ、逆に男性がお父さんの年齢なのに、若い女性がおじさんと恋愛する事が、珍しい事ではないことになってる日本では、女として生まれて、つくづく損していると思ってる女性も多いはずです。恋愛とは、人間の不可解な一生のテーマではないか、映画、小説などで、これほど描かれているのに、性懲りも無く、終わりを知らず、答えを求め続け、答えに貪欲な私達。白馬の王子も、最近は若者だけじゃなく中年が多く登場するようになって、恋愛はますます不可解なものとしての存在し続ける、のかもしれません。

「お父さん、ご免なさい、私恋してしまったの」と言う名台詞をイ・ミスクに言わせたオ・ジョオムギュン(Oh Jeom-gyoon)監督の『慶祝!私達の愛』は、男女の年齢が上なので、響き方も違っています。あくまで中年の女性に響く、と言う意味ですけど。作風がコメディとして扱って、世間からの本当のプレッシャーとかは描かれていないので、暗い映画ではありません。だからと言って、軽い映画でもない。いや、彼らが住む所は、豊かでない庶民の住宅地ですから、地位とか、世間体とか、鼻で笑えるくらいの空気があって、受け入れ体勢もずっといいのかもしれません。捨てるものが多い者こそ、恋愛には慎重になります。捨てるものが無い者は、素直に恋愛も出来るか、とね。主人公の年齢設定は50歳くらい。だから。娘に「どうしてこれが本物の恋愛だと分かるの?」と挑まれても、「この年に成れば、分かるのよ」と平然と返せる。良い年して、恋してて、本物かどうか分からないようでは、偽物よ!と言われんばかりの強烈な言葉です。主人公のボンスンを演じるイ・ミスクは、カンヌ映画祭で審査員賞獲得したパク・チャヌク(Park Chan-wook)監督作品『こうもり』(2009,英語題『Thirst』)でも、注目を浴びている女優です。彼女自身も50代と言う事で、女優としても、“誰々の母”と言う役ばかりを、過去10年程は演じて来ました。この映画の面白さの一つは、“母から女に変わる”主人公を見る事にあります。
 
 あらすじは、夫のカラオケ経営を助け、自宅にも数人の下宿生を置き、彼らの食事の支度までする“アジュンマ”(おばさん)ことボンスン。自宅に住む無職の一人娘は、下宿生の一人、グサン、と結婚宣言をしたかと思いきや、突然仕事を得て、ある日突然家出してしまう。傷心のグサンは毎日お酒に溺れる。酔っぱらった彼を背中におぶって帰ったボンスンは、彼と一夜を共にしてしまう。ボンスンの夫の反応も、ボンスンさん以上に細やかに描かれていて、自分には結婚を迫られてもおかしくない愛人がいるのに、20年来生活を共にした妻と離婚するつもりのない自分に驚き、妻の一途な“恋”を理解しようとする姿などは、結婚してる中年男性すべてに見て欲しいくらいです。夫婦とは、家族とはをも、考えさせてくれる作品です。
 
 イ・ミスクの演技の確かさは、この映画を見ても明らかで、彼女の“女”はかわいく、ひたすら一途。自分の気持ちに正直なのも素晴らしい。年を重ねる事は、正直にもしてくれないらしい、と当たり前の事を考えさせてくれた作品です。家族のいない薄幸のグサン役は、キム・ヨンミンが演じており、キム・キドック(Kim Ki-duck)監督の『Address Unknown』(2001)、『Spring,Summer,Fall,Winter、、And Spring』(2003)の2作に出演している俳優です。私にはこの映画の方がストーリーもキャラクター描写もしっかりしていて好きでしたが、独身で年齢の若い視聴者には、『人のセックスを笑うな』な方がアピールするでしょう。「オバサンと恋愛して何が楽しい?」と鼻で笑う前に、ぜひ、ご覧ください。

ベンクーバー新報:2009年、9月3日