中国映画:パート3(2000年代)

何人かの“6th Generation”を紹介します。と、言いましても、よほどの映画好きじゃないと、中国人でも観た事がない作品が多いのですが、北米では観られますし、知らないと損と思うくらい、面白い映画が多いのでちょっと我慢して付き合ってください。多分、一番外国人に知名度が高いのが、賈樟柯(Jia Zhangke)。この監督は、“6th”にも“Urban Generation”にも同時に名前を挙げられる人物です。北京電影學院中にドキュメンタリー映画を作成し始めて、1995年に16ミリの短編映画を撮影、その後一緒に映画製作をするようになるチームも、この短編映画を機に知り合っています。 

『Platform』(2000)、は、“6th”の中でも傑作と言われる映画で、地方の舞踏歌唱団の1970年代から、1990年代を描いた3時間もの長編です。北野武(ビートたけし)の「オフィス北野」を含め国内外の4カ国資本で製作された『Unknown Pleasures』(2002)。『The World』(2004)以降の映画は、国内外の資本に加え、始めて中国本国からの許可を正式に得て製作されています。地下から地上に出た、と言うのですか、アンダーグランドを卒業しました。『Still Life』(2006)はベニス映画祭のグランプリを得た作品です。彼の作風は、真の中国の生活を描いていると言われます。個人的には、『Unknown Pleasures』が一番好きです。4作品とも都会ではなく、山西省などの地方で撮影されたものですが、中国のありのままの”History in making”の生活記録としても素晴らしいと思います。大都会から遠い地方の町にくすむ若者達、コカコーラを飲み、アメリカの映画や音楽を楽しむ。が、職もなく、目的もない産児制限以降の“一人っ子”ばかりの若者達が、壊されているのか、立て直されているのか分からない煉瓦の山ばかりの町並みの中に存在し、京劇のキャバレーみたいな怪しげな店に出入りする中年達がいて、ただ二人で並んでテレビを見ると言う、可愛らしいのか、ぎこちないのか、健全なのか分からない若者のデートを観る。それだけかって?いや、投資側の思惑と言うのも、考えてみましたけど。

 “6th”の監督の中には、紹介したい監督が他に4名います。すでに『盲山』(2007)『盲井』(2003)で紹介済みの李楊(Li Yang)監督、王小帥(Wang Xiaoshuai)、 張元(Zhang Yuan) 、 婁(Lou Ye)です。

 王小帥の『Beijing Bicycle』(2001)は、彼の作品の中で一番公共向けした作品です。この映画はアメリカでもオープンしましたが、動員数も、収益も好ましくありませんでした。17歳の青年二人と自転車の話です。イタリアのビクトリオ·デシーカの『Bicycle Thieves』(1948)とテーマが似てると見られました。ベルリン映画祭で、二人の主役が新人賞を受賞しています。この作品が上映禁止になったのは、認可を得る時間が掛かり過ぎて、映画祭に間に合わなくなる為に許可を待たずに出品したからだと云われています。内容的には、上映禁止になるような因子は含まれていません。が、すでに一作目の『The Days』(1993)から、許可無しで世界各地の映画祭に出品した行動は、許し難いとされ(?)、ブラックリストに載せられ、新しい映画作りの禁止を言い渡されていました。彼は他の“6th”と同じくエリートの国営の北京電影學院で学び、卒業しましたが、最初の映画製作から、国営システム内での映画製作は不可能と自覚しており、システムの外で、自分の信じる形の映画の制作を望んでいました。この作品が作られた1990年代は、“5th”が一線で、歴史的、豪華絢爛な映画を製作、発表している時代でしたが、王小帥ら“6th”は、“5th”の映画は“不自然、かつ、気取っている”と見て、現代の世代を代弁するべく“真実の姿”が反映した映画作りをモットーにしていました。『Frozen』(1997)も、1994年に撮影されましたが、これも上映禁止。仕方なく、又、外国に密かに持ち出しました。主演の二人は本職の俳優ですが、なにしろ低い予算で製作されているので、主演の賈宏聲(Jia Hongsheng)は、監督の友人でもあったため、無報酬です。パフォーミングアーテストのマスターワークとは、死を題材にした危険なパフォーマンス、と言うのがストーリーですが、賈宏聲はこの後、廔(Lou Ye)監督の『Suzhou River』(2000)、張揚(Zhang Yang)監督の『Quitting』(2001)に出てからは、活動が絶えています。『Quitting』は彼自身のドラッグ問題の葛藤を描いた作品です。実際は1997年にリハビリ病院から退院しているようですが、その後の活動がみられていません。残念です。 

 王小帥(Wang XiaoShuai)監督の『So Close to Paradise』(1998)は、地方から都会に出て来た同郷の男二人が、暗黒社会と関わってしまう、と云うあらすじ。ボスの愛人は、ベトナム人の女性。中国の時代背景が垣間みれる作品ですが、サブジェクトが暗いので暗い、と云うか、彼らの生活自体もあまりにも質素で、どうしても、惨めに見えてしまう。映画自体は、国の認可を時間掛けてやっと受け、国営スタジオシステムの許しでの始めての公式な映画製作となりました。海外の映画祭よりも、先に国内で上映されています。さて、やっと私の一番好きな映画『Drifters』(2003)。欧米の評価は好評、悪評が入り混じるかたちになったそうです。私にはマスターピースとまで言われている『Beijing Bicycle』(2001)より、ずっと現実的で、力強い作品だと思えました。物悲しくもあったし。あらすじは、密航者として2年程アメリカで暮らした主人公は、この福建州の漁村では有名人。彼には、レストランのオーナーの娘との間に小さな男の子がいる。彼は密告され、この漁村に帰って来ているのだ。そこに、息子が里帰り。レストランのオーナーは同じ福建州の出身。息子に会わせてもらえない主人公。この映画はカンヌ映画祭を含む、世界各地の11もの映画祭で上映されました。北米の大都会には必ずいる密航者の話です。でも、舞台は中国。なぜ、多額の金額を払って、危険を冒してまでも密航者は後を絶たないのか?の疑問の答えを少しは用意してくれています。

張元( Zhang Yuan) 、婁(Lou Ye)の映画は次回になります。<続く>

バンクーバー新報1月14日版