中国映画:パート4

 張 元(Zhang Yuan)監督は、名声高い北京電影學院を卒業しながら、“6th”の監督の多くが選んだ“インディペンデェント映画(aka“ Indy Films”)の道を選択しました。作風、スタイルも“ドキュメンタリー”で、フィクションとドキュメンタリーが混じり合う、境界線がなくなると言うか、一口で言えばそんな映画です。出演者は大概素人で本人を演ずる、と言う作風で、未だになんでも国立の中国で、国と親密な関係を好まない異分子な訳で、1993年の取り締まりで、国の監査機関である映画局から、7人の映画監督が製作禁止のお達しをくらいますが、張元監督もそのリストに含まれていました。製作数は少なくもないのですが、北米では、『Seventeen Years』(1999)、中国語圏の大スター、姜文(Jiang Wen)と趙薇(Vicky Zhao)が主演の『 Green Tea』(2003)、そして,最近作の『 Dada’s Dance』(2008) くらいしか観る事が出来ません。『Seventeen Years』は彼が受けた 撮影禁止令が解除されてからの作品で、当時実際に使われている女子刑務所内での撮影を、中国で初めて許されて撮影した作品です。刑務所内の撮影が必要だったこともありますが、“悪ガキ”イメージから脱皮して、正統に認められたかったと思われています。良い作品ですが、プロパガンダ映画とも見えなくないです。私が一番好きな作品は、まだ“悪ガキ”時代の、国から顰蹙を買っていた頃、中国本土初めてゲイをテーマにした映画と言われた『East Place, West Palace』(1997)です。これには、香港映画『Infernal Affairs II』(2003)で印象深かった、後にテレビ、映画で活躍することになる、胡軍(Hu Jun)が出ています。話は少し外れますが、この後、胡軍は2001年に香港の映画監督、スタンリー·クワン(Stanley Kwan)の作品で 現代北京のビジネスマンと、若い苦学生の同性愛を描いた『Lan Yu』(2001)で、今は国際的な俳優になった(が、一般の人には無名かも。誰もが認めるハンサムではないので)劉菀(Liu Ye)と共演、二人共、台湾映画祭で“最優秀男優賞”を受賞しアジアで有名になります。この作品は、サンダンス映画祭やカンヌ映画祭などで正式出品作品として上映されました。天安門事件直後の北京が舞台と云うのも、印象深い作品です。二人共演技がしっかりしていて、体格もいいので(?)画面に引き付けられてしまいます。二人の全裸のシーンがありますので、リベラルな人だけ見て下さい。しかし、張元監督の“悪ガキ”性は衰えていなかったらしく、今年3月に覚せい剤使用の罪で逮捕されています。

 婁菀( Lou Ye)監督は、ただ今5年間の撮影禁止の命令が出ていて、2011年まで活動出来なくなっているはずですが、今年5月のカンヌ映画祭に『Spring Fever』(2009)を引っさげて登場して、大きな討論を呼んだばかりです。本人は、中国政府に睨まれているはずで、ちゃんと帰国出来たのでしょうか。その後が心配です。5年の禁止令は、前作の天安門事件で、デモに参加した大学生達4人を描いている『Summer Palace』(2006)に発されたものです。この前作でもヘアーが見えるヌーディティが話題なりましたが、今回は、加えて、ホモセクシュアリィティが描かれている、と話題性十分です。が、監督本人は「自分は、色々な複雑な人間関係を描いたのであり、特にホモセクシュアリィティを描いたのではない。感情、愛を表現したつもりだ」と発言しています。『Summer Palace』も、20年経った今でも中国国内ではタブーな話題である天安門広場事件と、その当時の知識層を自称していた北京大学(映画内では名称を変えてある)の学生達の生活を覗くには興味深いものがありました。ただ、学生運動はいつの世も麻薬的な高揚があるらしく、彼らの理論だけで、彼らを理解するのは難しいように思います。主人公の女性に知性を感じなかった点と、もう一人の女主人公の三角関係もどことなくフラットで、学生運動の意味、重みを加える事ができなかったのは、寂しい気がします。夜中に懐中電灯を持って学生寮の部屋を廻っている大学警察も描かれ、違法堕胎を受けるシーンもありましたので、真実を描こうとした試みは見えますが、それにしても、流されたままの女主人公には、苛立ちました。受け身なのです。抜け殻のようになって、「普通に結婚したい」という事を正当化するような一端の活動家ではなかったし、女として生きる事に対しても、中途半端だった、と感じたのは、私だけでしたか。『Purple Butterfly』(2003)は、章子怡(Zhang Ziyi)、劉菀(Liu Ye)、仲村トオルが主演ですが、変な言い方ですが、苦悩が描かれていなかったようで、失敗作です。正直、どうしたのだろう?と言う作品でした。アメリカ国内でも、1劇場だけの上映だったそうです。『Suzhou River』(2000)は、「中国 の“6th Generation”の大なる声に値する、フィルムノア(黒)」と言われましたが、ストーリーよりも、映画の雰囲気が「ヒッチコックや王家衛(Wang Kar-wei)を思わせる」と賞賛されました。この作品には、周迅(Zhou Xun)、賈宏聲( Jia Hongsheng)が出演、監督は許可無しで外国の映画祭に出品したため、その後、2年製作禁止。スタイリッシュな撮影です。やはりそれが一番印象深い。現代の上海の設定だが、港、それも、よどんだ泥色の河をロケーションに選んでいます。あらすじは、チンピラなメッセンジャーボーイが裕福なビジネスマンの娘を誘拐して、身代金を得ようとするが、海に飛び込んで消えてしまう娘。刑を終えたチンピラは、盛り場で、娘にそっくりな踊り子に会う。婁菀監督の描く若者は、感情を持たないのか、表さないのか、現実離れしている、と云う意見もあります。特に周迅(Zhou Xun)2役なので、ストーリーに付いて行けなかったと、告白しておきます。最近は“6th”多くの監督達が“いい子”になって、政府と仲良くして映画製作をしているのに、未だに政府から睨まれている監督としては、貴重な存在になりつつあるので、目が離せないのも事実です。

 1990年代までは、“インディペンデント映画”は存在しなかった。この時期に、ドキュメンタリー映画も全盛期を迎え、“New Documentary Movement (NDM)”などと呼ばれています。80年代から現代までの中国の改革解放30年、激動の30年です。この時期には又、ゲイ映画も作成されるようになりました。<続く>


バンクーバー新報:2010年 2月18日