中国映画:パート6

陸川(Lu Chuan)は、今、『南京!南京!』(2009)で中国本土だけではなく、国外でも話題になっている監督です。『City of Life and Death』としてDVDがリシースされるようですが、北米では公開上映はされていないようです。すでに香港で上映中、韓国、台湾、イギリスでの公開が決まっているようです。日本での上映を監督自身が望んでいるそうですが、日本の配給会社は何処も却下したようです。まだ私自身も観ていないので、なんとも言えませんが、長い期間を中国政府からの許可を取る事に費やしたこの映画は、政府からのカット要請も少なく、中国政府も気に入ったようで、今年10月に行われるという“社会主義60年”の式典の映画選抜10点の1点に選ばれたそうです。北京電影學院の大学院で学ぶ前に、陸川監督は士官学校に8年学び、その後の2年も士官付きの秘書を勤めた事もある人物で、この作品は、今までのプロパガンダ映画にありがちの、日本人=悪魔と言うお決まりの設定から、違う視点を見せたと言われています。が、同時に公開直後にインターネット上で、監督は殺人予告を多く受けたと聞きます。それは、日本人の兵隊に対する同情が表現されていると見られているためです。愛国主義のトーンが強いそうですが、バイオレンスな映画を見るべく、なんと最初の19日間に100万人以上の観客が映画館を訪れ,2千200万ドルと、中国映画にしてはかなり良い収益を生んだそうです。『Missing Gun』(2002)は、姜文(Jiang Wen)が演じる地方のお巡りさんが拳銃を無くしてしまう、と言うあらすじのシンプルな映画ですが、上海の方言を言語として選んでいる点が批難を受けました。彼のこのデビュー作は、ディジィタルで撮影されたが、収益はなんと、『Lord of the Rings : The Fellowship of the Ring』を押さえて100万ドル稼いだそうです。デビュー作ですでに、才能を垣間見せている事が良く分かります。そして、私が好きな『Kekexili: Mountain Patrol』(2004)です。絶滅寸前のアンテロープを狙う密猟者、国からの支援も無いのに、母国を愛するが故に密猟者を捕まえようと、自警団は、自然と格闘しながら密猟者を追い詰めようとする。なんと言っても、素晴らしいパノラマです。美しい山々。美しい自然。人と自然の葛藤を見て、何度も涙してしまいました。が、“お涙頂戴”の映画のように撮られてはいません。偽ドキュメンタリー様式って感じです。北京からの新聞リポーター役と、自警団の首領だけは俳優ですが、後は、素人を使ったと言う事ですが、密猟者を除いて、自警団員はプロの俳優並みの演技です。

俳優の姜文(Jiang Wen)は、大スターですが、映画監督でもあります。俳優で監督として映画を撮って、評価されている人物は3名。姜文(Jiang Wen) 徐靜蕾(Xu Jinglei) 陳沖(Joan Chen)です。ジョアン·チェンは、『Xiu Xiu: The Sent Down Girl』(1998) 、徐靜蕾は『Letter from an Unknown Woman』(2004)が有名ですが、映画監督としてとしても優れた人材だと思われているのは、姜文では無いかと思います。北京電影學院を卒業した訳ではありませんが、“6th”のメンバーとして加えられている事も多いですし、映画界でも一目置かれているのでしょう。ハンサムでも無いし、美男子でもなく、スマートでもないのに、不思議な魅力のある男性です。母性本能を刺激する“いたずらっ子のような”存在というのでしょうか。

彼の監督作品は3本しかありません。3本とも、監督、脚本、俳優と勤めています。『Devils on the Doorstep』(2000)は、中日戦争を舞台にしたドラマで、日本人の俳優も出演しており、『鬼が来た!』と言う題名で日本でも公開されています。カンヌ映画祭に中国映画局の許可無く出品して、中国国内で上映禁止となりました。7年の映画作成禁止が出たであろう?と憶測されているものの、俳優として活躍は休んでいません。ここでの彼の役は農民です。徐靜蕾の『Letter from an Unknown Woman』で俳優として、知的な作家の役を演じているのとは、別人のようです。が、張藝謀のデビュー作『Red Sorghum』の時も、そう言えば、農民でした。同じく丸坊主の頭です。香川照之がいいです。いままでも、見て来たつもりでいましたけど、西川美和監督『ゆれる』(2007)の香川照之と、この時の香川照之は、すごくいい。題材が題材だけに、日本人兵が“いかなる日本兵”だったかどうか、監督の詳細にこだわる気合が感じられ、 少なくとも、今まで、力んでるだけ,怒鳴っているだけの変な日本語を話す“日本兵もどき”の演技が多い中で、ただでさえ香川照之の演技は光るのに、それ以上に、キャラクターの奥行きを感じさせる“或る日本兵”の演技になっています。商業的には、日本とアメリカで公開上映されましたが、大ヒットにはならずに終わりました。が、映画としては、秀作です。

 “Urban Generation”タイプ、大都会の世界を描く監督に、張一白(Zhang Yibai)を挙げます。テレビ界出身で、ミュージックビデオの製作をしていたそうで、彼のデビュー作『Spring Subway』(2002)は、都会の人間なら美しいとも思わないであろう地下鉄が美しく撮影されています。地方の若者が東京や大阪、あるいは、ニューヨークやロンドンに出て来た時のような感動って言うのでしょうか,それが、彼の映画には詰まっているような気がします。本人は重慶の出身ですから、田舎じゃないです。まず、音楽が、私のような音楽に詳しくない人間にも、アピールする軽快な音楽が幾つも入り、カットもシーンも大変モダンで、センスが良く、美しい事。北京の地下鉄がこんなに奇麗な所だとは思ってもいませんでした。ロンドンも、パリもニューヨークも汚いですから、これは、びっくりでした。北京は大都会です、と、言い切りたいのですが、まだ行った事がないのです。主人公は結婚7年目の倦怠期に入っている夫婦です。妻役は徐靜蕾(Xu Jinglei)。失業して妻に言い出せないで、毎日地下鉄に乗って時間を潰す夫に耿樂(Geng Le)。毎日夫が乗る電車には、何人かの常連が。若い青年と、写真屋に勤める女の子の始まらない恋の話は特に印象的。この映画で私は、中国大陸のロックバンドの羽泉を知る事になったのでした。
 刁亦男(Diao Yinan)の『Uniform』(2003)、張揚(Zhang Yang)の『Shower』(1999)、
も中国の内情が見えていい作品です。まだまだ紹介したいのですが、この辺で。<続く>

バンクーバー新報: 2010年 4月22日