『GONIN』(1995年)

最近は、DVDの普及が目まぐるしいけど、1995年と言えば、まだ、VHSビデオの時代で、日本映画のこちらでの放映も限られているから、邦画を観る機会は、極端に少なかったと記憶しますが、如何なものでしょうか?私はこの期間を“眠った時間”と呼んでいとおしく感じています。自分自身の興味視野の中にも、潜在意識にも存在しない、ジェムが隠れている、と言う事ですよね。また、1990年代は、Vシネ(オリジナルビデオとも呼ぶ)が、劇場公開を目的にしないパッケージ専用の映画として生まれ、低予算でも劇場公開作品に劣らぬ品質を目指すようになったそうです。哀川翔と竹内力は、Vシネの2大スターと呼ばれているそうです。そう言った劇場公開されていない映画も、今日私達は観る事が出来、過去の映画もDVD化されて、レンタル映画で鑑賞できる。このチャンスを多いに利用しないバカはいないでしょう?と、前置きが長くなりましたが、先日、この作品に出会った訳です。紹介するには、少し古い、が、かなり、すごい!と身震いしたくらいです。

日本から離れて30年以上になる私は、映画やテレビの流行には敏感なつもりですが、あくまでも、ヒット作品に限られてしまうし、それが劇画(これは、漫画とは違うらしい。子供向けでは無い漫画。)ともなるとお手上げですが、この『GONIN』の監督は、漫画家で脚本家でもある石井隆です。なんでも、“天使のはらわた”シリーズで大ヒットした人らしいです。日活ロマンポルノで映画化されたそうですから、“天使”は天使でも、“はらわた”が付くので、かなりえぐいのではないかと、想像します。途中からこのシリーズの監督も勤めるになります。日本映画の歴史に、東宝ポルノ、日活ポルノ映画は確実に足跡を残していますが、また、多くの監督も昔はポルノ映画を撮っていた人が多いのです。例えば、『おくりびと』(2009)の滝田英二郎、岩松孝二(「ポルノ映画の黒澤明」とまで言われた監督だそうです。)、崔洋一(『十階のモスキート』1983年)、周防正行(『Shall we ダンス?』1996年)、黒沢清(『Cure』1997年)などが有名です。女優高橋惠子(関根恵子)の夫君、高橋伴明監督(『Tatto<刺青>あり』1982年)も、ポルノ映画からスタートしています。

絵コンテはもともと、シーンをビジュアルに表現するために描くので、全く漫画のコマと変わらないので、優れた漫画家は、良い映画監督になれそうな予感がしていましたが、出ました!と言うところでしょうか。全然、シーンに無駄がない。近年『GONIN 1&2』と言う、映画2本セットなるDVDが発売されていて、レンタルでも観る事が出来るようになったのですが、こちらの緒形拳+女性5人組『GONIN2』は、自殺に追い込まれた妻の復讐をする緒方拳がいいですけど。必殺仕掛人の目付きで迫って来ます。始めの頃は、力のない工場長ですから、お金の工作に疲れ果てた感じで、そこからの変化が凄いです。超人的。大竹しのぶなどの芸達者も5人の一人なのですが、なんか、役との相性が悪かったのか、今一つ、楽しんで別人を演じる姿が見えず、一番目立ったのは、ヌードも物怖じない体当たり演技の喜多嶋舞でした。そもそも5人が事件に巻き込まれて行く理由が緒形拳の殺意と比べ貧弱で、緒形拳に花添える女性軍5人を紹介するのが充分でない、漫画界と現実界の宙ぶらりん、にありました。そこが、がっかりの理由です。が、『GONIN』の方は、それぞれ5人が私達観客を離しませんし、脇役もすごいですから、肩に力が入ってしまったまま、終わるって感じです。ちあきなおみの唄とか、演歌のような曲が多数有効に使われているし、音の使い方も、例えば、水の落ちる音から、アンビアンスまで、非常に効果的に使われています。

『GONIN』はオリジナルタイトルです。日本題も『GONIN』です。バイオレンス過ぎるアクション(?)映画なのですが、俳優と監督が映画作りを楽しんでると表現しましようか。キャストもすごいですよ。佐藤浩市は、ディスコのオーナー。佐藤浩市は、三国連太郎の息子と言う事で、比較されて重荷であるはずですが、彼自身、存在自体にユーモアがあり、暗いイメージから程遠い生まれ持った品性があるので、ここでも、なんか、財政的に困っていながら、お坊ちゃん的余裕がある。勘違いで登場する美青年が本木雅弘です。本木雅弘は、カツラを被っていて、メイクをしていると本当に美しい。美青年役って、様になるのは難しいと思うのですが、実際に美しい男性なのですね。そして、狂気を感じます。ドラマで怖いサドっぽい役をしているのを見た事があるのですが、この役も、楽しんで演じている。そして、佐藤演じる万代が、バッティングセンターで会う、リストラされたサラリーマンが竹中直人。汚職でクビになった元刑事の根津甚八。そして、顔が,何故かずっと浮腫んでいる椎名桔平で5人。劇中、かなりぼこぼこなぐられたので、本当に腫れてしまったのか?と思ったくらいです。なんとこの作品が、彼の映画初作だそうです。そして、万代が、多大な借金をしているのが、大越組。組長は誠実そうな風貌の永島敏行。若頭は、鶴見辰吾。ヤクザ映画にあまり親しんで来ていない私は、意外に思ったのですが、適役で、感心してしまったくらいです。鶴見辰吾は、狂人役はぴったりで、他でも、変態役を見た事があるのですが、武田鉄矢金八先生の15歳の優等生のイメージを今でも持っているのは私くらいかもしれません。この映画全般に感じるには、俳優が、役を楽しんで架空の世界を再現、私達をこれでもか、見ろ!って、感じで楽しませている、と言う感じ。バイオレンスですよ。血とかドバーって感じで流れますから、もうファミリー映画を語る事は不可能なくらい、その路線から大外れしています。エンターテェイニングです、と言ってよいものかどうか。道徳的に非常に悪い作品ですが、面白い。そして、ビートたけしが木村一八と登場。凄腕の殺し屋と相棒と言う組み合わせです。ビートたけしの狂気は演技に見えないのは良く知られていますが、ここでも、台詞もとぼけふざけていますが、尻の落ちたトレパンの格好で、傘を差しながら機関銃を打つビートたけしは、まさに、“切れてる”人。木村一八も、日本刀を車に所持していて警察ザタになりました。横山やすしの息子というのが、この人にも付いて廻っているのかな。が、映画ではいい味出してると思います。非常に子供に悪い映画ですが、大人の貴方には病的な,劇画的な、ユーモア(?)が伝わるかどうか? やっぱり奇抜過ぎるか? 反応が楽しみな映画です。