タイ映画:パート2(Tony Jaaのアクション映画)

「海外で話題を集めるタイ映画は、ホラー映画かアクション映画」と言われます。コメディは言葉遊び的な面白さが分からないと、幾らアジアでも万国共通と言う訳にいかないものです。が、ホラーや、アクション映画だったら、言葉はいらない。でもメガヒットには、コメディが不可欠?

アクション映画は、ちょっと前まで「ハリウッドか香港」と言われたほどでした。大資本でカーチェース、コンピューターによるスペシャル効果、大掛かりな爆発がふんだんなハリウッドのアクションに較べて、資本的に勝ち目は無いが、香港らしく、と、武侠映画が発達した香港です。香港映画、それはそのままジャッキー・チェン、の功名になりました。それでは、香港に対するにはタイには何があるか? ジャッキー・チェンや、サム・ホー、ジェット・リーそして、ドニー・イェンが有名にしたのがカンフーであるなら、匹敵するのはタイのキックボクシング、Muay Thaiでしょう 。映画でMuay Thai を一躍有名にしたのは、トニー・ジャー(Tony Jaa) ですが、彼はワイヤーなどを一切使わないのを“売り”としています。ジャッキー・チェンがスタントを全て自分でこなして、世界のジャッキー・チェンになったように、トニー・ジャーも、スペシャル効果無し、ワイアー無しのMuay Thaiで対抗していると言って良いでしょう。伝統的なMuay Thai の魅力に加え、最近は、タイでも一般にコンピューターグラッフィックの技術も高度になり、ワイヤーや、ブルースクリーンなどの助けを借りて、安価で、短時間で、かつ高度技術に伴い人体に及ぼす危険な事故の発生度も従って低くなっているそうです。それ故、タイが新しい“アクション映画のアジア中心地”として注目を集めるようになって来ている訳です。ただし、ジャッキー・チェンの映画がハリウッド(つまりは世界)に受けたのは、コメディセンスが抜群な事、そして、ジャッキーがけっして人を殺さず、機関銃もガンも使わないと言うファミリーフレンドリーなところに魅力がある訳です。較べて、トニー・ジャーの映画は、アクションは素晴らしいのですが、敵の骨が折れる音がバキボキ聞こえるようなシーンが多いし、トニー・ジャー自身がちょっと暗くて、田舎の青年の真面目さはあっても、田舎の芋青年の悲しみを笑うと言ったペーソスもなく、その上表情も貧しく笑顔が無いと言う、明らかにコメディに不向きと言う大きな欠点が。それまでも、トニー・ジャーはスタントマンとして,ほぼ無名のアクション俳優として、映画に出演して来たのですが、やっと誰かが(プロデューサーでもある、監督のPrachya Pinkaew)そこに気がついた。彼にユーモアのセンスがないなら、共演者をコメディアンにしてしまえ、とばかり、コメディ俳優、Petchtai Wongkamlaoとチームアップした映画が『Ong-Bak:Muay Thai Warrior』(2003年)です。大成功を納めました。トニー⋅ジャーは、この映画でタイのMuai Thaiを世界に注目させたい為に、資金集めから参加していたそうですが、この大ヒット作品は、北米387劇場で上映され、450万ドルを稼ぎました。

このコメディアンPetchtai Wongkamlao は、『Ong-Bak:Muay Thai Warrior』でトニー・ジャーと共に世界の舞台に飛び出したことになり、2004年には、監督主演の映画『The Bodyguard』、2007年にもやはり監督主演で続編『The Bodyguard 2 』を出しています。香港の大スター、ステファン・チョー(周星馳)もそうですが、ご本人はコメディアンで、カンフーは勿論、Muay Thai もできません。お顔は忍者タートルの亀さんのようで不味い顔ながらも(失礼)愛嬌があり、手足が短いために“格好よくない”ため、 タイ語が分からなくても、笑えます。ただし、ちょっと下品なジョークが多いです。『The bodyguard』では、ウォングカムラオが前だけ隠して全裸で混雑する事で有名な路上を走る、と言う短くないシーンがあり、悪名高い。『The Bodyguard2』は2008年に『Ong-Bak 2』 が世に出るまで、タイ映画史上、もっとも製作費が掛かった作品と言われています。2作ともトニー⋅ジャーがカメオ出演しています。

2005年、『Tom-Yum-Goon』(aka 『The protector』)は、アジア映画愛好家のクウェイティン・タランティーノ監督の“裏書き”で上映されると言う展開で、米国で1200万ドルを稼ぎ、世界的にはその2倍を稼ぎ、アメリカで上映したタイ映画としてタイ映画史上最高のヒットとなりました。この作品も、再びコメディアンPetchtai Wongkamlaoとコンビを組み、監督、プロデューサー、脚本も同じくPrachya Pinkaewです。何代も続く王室の象の飼育係役のジャー。祭りの期間中に大切な象がポーチャーの手によって盗まれてしまう。Kham(ジャー)は、「トムヤムクン⋅オトビ」と言うタイ料理のレストランを経営するベトナム人ギャングによって、象はオーストラリアに運ばれた事を知る。 現地でKham 助けるのが、タイ系のオーストラリア人の警部、マーク(Wongkamlao)。この映画のジャーのアクションの素晴らしさ、ロングテイクのアクションシーンのカメラワーク、象とのシーン、コメディアン、ウオング⋅カマラオの不思議な魅力に加えて、タイ美人のBongkoj Wongkamalai、それから、中国初のトランスセクシュアルの一人である金星(Xing Jin)が、シドニーのギャングメンバー役で、やはりトランスセクシュアルの女性を演じています。金星は朝鮮族出身のバレリーナ、モダンダンサーで、彼女の悪女としての存在感は、一見の価値が十分にあります。また、所々で、監督の遊び心が。カメオ出演の俳優や、本物そっくりの、有名人“ダブル”が出てきますので、楽しませてくれるはずです。

ただし、『Ong-Bak:Muay Thai Warrior』には皆無だったコンピューター合成(CGI )が、この映画では何カ所かで使われています。アメリカのウェインステイン社が米国の上映権を買い、“Dragon Dynasty”のラベルでDVDも販売しているそうです。Toy Jaaの他の作品に『Ong-Bak 2』、『Ong-Bak 3』がありますが、ジャーのアクションの素晴らしさは変わらないとは思うのですが、話の展開が面白くないのが、残念です。続編と言うことですが、『Ong-Bak 2』は、古代タイの設定です。『Ong-bak 3』は今年の5月にタイで上映されているはずですが、まだアメリカでも上映されていません。著名なプロデューサーでもある第一作で監督だったPrchya PinKaewは、2作目では、プロデューサーとして参加するのみになり、第3作目には、全く手を引いてしまい、製作に不参加です。第2作と3作の監督として、トニー⋅ジャーと、彼の恩師ことスタントマンのPanna Rittikraiの名前が連なっています。ジャーと師匠とのコラボレーション映画も、何本か観ましたが、アクションが幾ら素晴らしくても、丁寧な撮影とコメディタッチがないと、トニー・ジャーのアクションが優れものに見えないから不思議なものです。

私個人では、トニー⋅ジャーなら『Tom —Yum-Goong』(2005年)が一番好きです。次回は、第2“New Wave”の監督達を紹介します。



バンクーバー新報:2010年 10月21日