『K-20 怪人二十面相・伝』(2008年)

楽しい映画を観たい。楽しくても、バイオレンスは嫌だ。アニメでもいいけど、アクションがあって、家族で観られるファミリー映画がいい。久しぶりに家族で応接間に集まって家族団欒しながら観たい。

『K−20怪人二十面相・伝』は、2008年の作品である。怪人二十面相と云うと、江戸川乱歩原作の「少年探偵団」を思う人が多いと思うが、こちらは、北村想の小説『完全版 怪人二十面相・伝』が原作である。私は原作を読んでいないのだが、幾つか映画用に創作された設定がある。「舞台は第二次世界大戦が回避された架空の昭和24年。格差社会のひどい帝都東京では怪人二十面相が富裕層を狙う犯罪を繰り返していた。人々は彼を“K-20”と呼んでいた。サーカスの曲芸師の遠藤平吉が、本物の怪人二十面相に、怪人二十面相の替え玉に仕立てられてしまう。濡れ衣を着せられた平吉は軍憲(警察)から追われる羽目になり、汚名を晴らす為に、K−20に狙われた令嬢・羽柴葉子とその婚約者である名探偵明智小五郎と共に、K−20に立ち向かう」

遠藤平吉には金城武。明智小五郎には仲村トオル。華族の令嬢に松たか子。監督は佐藤嗣麻子。ふんだんなVFXが使われている。スチームパンク的な映像も特徴だ。スチームパンクとは、Steampunk。映画にもいろんなジャンルがあって、ややこしくもない事をかえってややこしくしている感があるが、サイエンスフィクション、架空設定歴史物、と云うか、要は、蒸気力が重宝され、主力だった時代を描いたジャンルだ、ということである。だからか、何故か哀愁がある。『エンターテインメントを描く数少ない女性監督」と云われている監督は、彼女の実力には全く無関係な事だが、ご主人が、やはり映画監督の『Always3丁目の夕日』の山崎貴。『3丁目』の2作品でVFXを担当したのが、この映画でもVFXを担当した白組(VFXの会社)である。また、山崎貴も脚本、VFX協力でこの作品に参加している。何処と云うのではないのだが、どこか懐かしい共通点を見つける事が出来ると思う。黒マスクで登場する怪人二十面相に、去年の『グリーンホーネット』を思い浮かべた私だが、ゾロ、スパイダーマンやバットマンまで「アメリカ漫画を意識した」と評価する人々が多いように、確かに、漫画の世界、ファンタジーの世界満喫のまさに“娯楽映画”である。それに主演級二人はハンサムな格好いい男達で、最初の方に、これまたハンサムな要潤も博士の助手役で出ているから、女性には嬉しい。盗人集団のボスの源治は、國村隼で、その妻役の高島礼子が、なんとなく引き締め役と云うか、“舞台の上での芝居のような話”の展開を引き締めてくれていて、朝のテレビドラマのような雰囲気が。残念なのは、『少年探偵団』は芸達者な子役達がいかにも“演技している”感じだし、盗人の集団の長屋も、“いかにもセットです”、に見えて、最近の言い方で言えば、“寒い”かもしれない。

ストーリーも、ちょっと考えてもおかしな展開が多い。が,子供も楽しめるエンターテインメントじゃないか、煩い事を言うのは止めようと思う。話の筋は通らなくて良い、楽しめることに重点を置くことにする。そもそも怪人二十面相は、「血を見るのが嫌いで、殺人をしない」。そこで、もうすでに、現実離れしたファンタジーではないか。最近良く思う事であるが、家族向けの娯楽映画には、殺人どころか、血も禁物で、悪人もユーモアか愛嬌がある憎めない奴でなければ後味が悪いものである。家族向けの悪人は、バイキンマンが理想像だと思っている。”憎めない悪人”に仕立てるなら、コメデイアンが悪役をこなすのが妥当だが、この映画では違う。ともかく冷酷な悪人は誰もいない。悪は「我々人間が自ら生む」のだ。だから、正義はある。美しかった金城武も30代後半になり、前髪の生え際が後退し始め、あんなに美しく靡いていたゆるくウェーブする黒々とした髪も後ろに引き詰めてしまい見られないが、あの美しい目は健在だし、仲村トオルのあのニヒルな口元から、ちょっと怖い目付きは、セクシーでさえあるので、バカバカしいストーリーでも,大人にも十分アピールすると思う。松たか子は、かなり天然な華族の令嬢を好演してるし、高島礼子は、なんだか、ほんわか楽々と言う感じで、楽しそうでもある。1シーンに松重豊が登場するが、彼でなければならない必要性は感じられ無いものの、朝飯前の1シーンで、ちょっと寄りました、と言う感じで、多分劇場では「松重豊だ」とざわめいたかもしれないと思う。アニメ映画に『鉄コン筋クリート』(2006年)と云う題名の映画があるのをご存知だろうか。私はあまりコミック、アニメには詳しく無いが、日本の漫画家松本大洋の代表作だと云う作品である。映画はアメリカ人の監督で、日本公開用の声の吹き替えのスター達は知名な俳優達である。二宮和也、蒼井優、田中岷、伊勢谷佑介、大森南朋、本木雅弘、宮藤官九郎などが声の出演をしている。私はこのコミック本を、実は旅行先のスペインでスペイン語版で初めて観た。日本アニメのファンは世界中に居る。この『鉄コン筋クリート』(舌がもつれると云われるかもしれしれない。松本大洋自身が、“鉄筋コンクリート”と発音できずにいたそうで、彼の子供言葉だそうだ。反対に、今我々大人が“鉄コン筋クリート”と子供言葉で読むのは練習がいる)この『鉄コン筋クリート』には、電車が出て来る。路線電車だ。ヤクザの話があるし、いじめっ子が出て来るので、こちらの方が現実味がやや強い。レトロな魅力と云うか「古き良き時代」、「懐かしい」雰囲気が全体に漂っているのがいいが、この『K-20 怪人二十面相・伝』も、そこはかとない同じ魅力がある。


佐藤監督はこの『K−20 怪人二十面相・伝』を、「冒険活劇」と評しているが、最近人気のワイヤーを使っていないので、中国の武侠映画のように、空中を舞い飛んだりしない。変装は自由自在と言うが、そんなに頻繁に変装しないし、変装以外には超能力もなさそうで、地に足が着いてる感じがする。要は超人ではない。だからか、「しっかりアクションを描く事に力を入れたそう」だが、この手法と言うのは、フランスのパルクールと云うものだそうだ。Parkourと書く。スイスの小高い山の中には、よく村が設定したパーコー運動コースがあるが、この“パーコー”コースしか知らなかったが、フランス語では「パルクール」と呼び、「走る、登る,跳ぶ」の運動方法の一種だそうだ。主役の金城武自身がこなしているらしいが、近くにカメラが近づけないので、替え玉(スタンドイン)の所もあるかもしれない。器用な人らしいが、上手すぎると思う。しかし、素晴らしいのでお見逃し無く。監督はやはり「江戸川乱歩ファンを裏切らない」、を意識したそうだが、「怪人二十面相に落し入れられて、怪人二十面相になっていく、遠藤平吉」、と云うストーリー、キャラクター造形にもツイストがあるし、明智小五郎が嫌な奴、と云うのも、仲村トオルで格好良過ぎてしまった感はあるが、いいじゃないか、格好いい、嫌な奴、明智小五郎も。

ファミリー度:5(5段階評価)
映画度:3半