台湾映画パート3:Edward Yang

今年9月9日に、台湾で公開予定の映画『Seediq Bale/賽達克・巴萊』は、公開前から話題になっているようです。監督は魏達聖(Wei Te-sheng)、台湾映画市場売り上げ第2位(1位は『Titanic』)の『海角七号』の監督です。歴史大作で、1930年に起きた占領日本軍と原住民との戦い、霧社事件を描いた作品だそうです。『海角七号』も、日本と台湾の歴史に触れていますが、結果として親日的でしたが、今回は、実際にあった抗日事件に基づいているため、果たしてどう描かれるのか、世間がどう受け止めるか、大変興味深いものです。すでに、前売り券も7万枚を突破しており、大ヒット間違いなし、のようです。

威厳令解除後は、このような歴史的事実を扱った映画も作成されています。『The Sandwich man』(1983年)台湾のアメリカ占領下の話.『Good Men, Good Women』(1995年、候孝賢) は、白色テロの話です。楊昌なら、61年に起きた牯嶺街少年殺人事件を描いた『A Brighter Summer Day』(1991年)が、台湾新電影の作品として、上げられるでしょう。

新しい動きとはいつも、置かれた政治政策の監視下に対抗して、コマーシャル化して行く事ではないか、と思います。同時期、台湾は高度文化への羨望、より競争率の高い資本主義の世界へ飛躍し、ビジネスの面でも、世界はともかく、中国本土への資本の投入などが著しくなりました。そういう社会の動き、エレルギーが、80年代始めの「台湾新電影」を興して行く。1987年7月15日に、1947年に張られた威厳令が解除されますが、台湾は、40年もの年月“監視拘束”された政治政策下にいたのは、紛れも無い事実です。

台湾新電影当事者達のインタビューを見た事があります。当時を知る他の映画関係者達は,楊昌(Edward Yang)のことを、「非常にアメリカンな青年だった」と口々に語っています。アメリカで大学に通い、晩年もアメリカに住んでいました。最初の妻は、台湾の有名なポップ、フォーク歌手のツァイ・チン(蔡琴)で、二人目の妻は、やはり台湾の著名なピアニスト、カイリ・パンでした。

彼の作品『Yi Yi:A One and A Two 』は、2000年度のカンヌ映画祭の最優秀監督賞を受賞します。この作品で、世界にも知られる監督になりましたので、彼の初期作品の数々への、興味が募られたのも当たり前の事です。この作品で、彼はやっと資本を心配する事無く、好きな映画を制作出来る立場になったはずです。が、この作品を最後に、映画から離れWebアニメーションの方向に向かいます。映画はこの『Yi Yi 』が最後になります。第一作品からして、CMPC(中央電影公司)と歩調が合わず、コマーシャル映画製作から、独立映画の方向に歩いていた彼だったのです。

楊昌の『Yi Yi』は、最近又視聴しましたが、キャラクター描写が素晴らしい、と再び確信に近い思いを感じました。台湾新電影の同士達は、特に候孝賢(ホウ・シャオシェン)とは、“台湾新電影”の中心的存在であり、友であり、映画界ではライバルであったと思います、『YiYi』には、吳念真(ウ・ニアンジェン)、現在も台湾の著名な脚本家、が、父親役で主演しており、イッセイ尾形とのシーンも光っているのですが、アメリカから、突然目の前に現れた昔の愛人に心を動かされ、昔の想いに火がついてしまう中年の二人が、日本で落ち合い、一緒に旅をする二人の心情描写は素晴らしく、特に、現実の生活が忙しく、馴れ合いになってしまっている男女が観たら、ちょっと唸りそうです。
幸運にも私は、もう一作品、『恐怖分子』(1986年,英題『The Terrorizer』)を観る事が出来たのですが、2作品共に、非常にコスモポリタンな雰囲気があります。私は、彼のモダンな思考が、彼の映画に反映しているところが、とても好きです。非台湾的と云うか、アメリカンと云うか。

楊昌は2007年に亡くなっています。映画は『YiYi』が最後になってしまいましたが。彼の映画は今日も生き続けています。

バンクーバー新報:10月13日、2011年