台湾映画パート9

多国籍映画製作に携わるようになり“人材コラボ”も珍しくない時勢の台湾映画。配給もアメリカ配給会社アジア部門などで、増々アジア圏での注目度、人気度は高まっています。今回で台湾映画は完結です。その幾つかを紹介させてください。

最近の話題作は、バレンタインの時期に公開された『Love』(2012年)。ベルリン映画祭で上映され、台湾にしては巨額な制作費でしたのに、台湾を除いて、アジア圏でも今一つの結果のようです。中国本土女優のビッキー・ザオ(趙 薇)と、台湾のスー・チー(舒淇)が出演し、主役級の男優3人も台湾映画の注目株でもある。3人の内2人、マーク・チャオ(趙又廷)とイーサン・ユエン(阮經天)は、2010年に大ヒットした『Monga』に出演。監督も『Monga』同様、子役として9歳から活躍している俳優でもあるDoze Niu(鈕承澤)。台湾と中国の微妙な関係が、箇所に出てくるが、アメリカ人には伝わらないだろうな。良く出来ていない訳じゃない。出来ているけど、でも、特別な作品じゃない、とでも云うか。その点『Monga』は、似たような映画はあっても、特別な映画だと思う。お奨め作品です。

映画タイトルの“Monga艋舺”は、台北市最古の地域、現萬華區のことで、映画『Monga』は、編集も撮影もコメディタッチの1980年代の台湾ギャングの話です。この映画に出演していたイギリス人とのハーフ、Rhydian Vaughan(鳳小岳) が話題になった『Winds of September』(2008年)。台湾の高校生が身近に感じられるテーマで,トロント映画祭、日本国際映画祭にも参加しました。Skinny Dippingを含む色々な台湾映画のタブーを破った作品だそうですが、台湾は、この手の青春映画が大好きなようです。昨年台湾、香港、シンガポールで映画史を書き換える程大ヒットした『You Are the Apple of My Eye』(2011年)は、1978年生まれの彰化縣出身の著名作家、九把刀ことGiddens Koの、半自伝的な小説を、作家自ら監督した映画です。主演のKo Chen-Tung(柯晨東)は、それこそ彗星のように現れた新人で、のんびりした独特の存在感と自然体の演技で、第48回台北金馬影展で最優秀新人賞を獲得したほどです。相手役はミッシェル・チェン。『Eternal Summer』(2006年)は、デビュー以後、テレビと平行して活躍しているジョセフ・チャン(張孝全)が主演です。この芸達者な俳優は現在28歳ですから、この時23歳くらいで、ちょっと不良な男っぽいセクシーな(?)高校生を演じています。演技では、むしろ共演のブライアント・チャン(張睿家)が注目され、第44回金馬賞の新人賞を受賞しています。フレンドシップと恋慕が繊細に扱われていますが、当時、かなり話題になったであろうことが想像出来ます。小作品ですけど、同性に抱く恋心がテーマだけに、私の記憶にも鮮明に残っている作品の一つです。青春映画のクラッシックは、やはり、チェン・ボーリンとグイ・ルイメイを有名にした『Blue Gate Crossing』(2006年)でしょう。蒸し暑い、(恋心で)寝苦しい台湾の夏を、感じることが出来る映画じゃないかと、思います。なのに、若者の恋はいつも清々しいのです。

今日の台湾と日本との間に国交が無い、のですが、台湾は1895年に交わされた下関条約に依り日本の支配下になり、戦後まで50年続きます。2011年の『Warriors of the Rainbow: Seediq Bale 』は、1930年に現南投縣霧社で起きた事件を描いており、たとえ目的は忠実な歴史の再現であったとしても、反日本的に映るでしょう。顔面刺青と勝利の“証”として首狩りの風習のあったセデック族の、首長モナ・ルダオを主人公としたこの映画は、なんと、4時間半の長編で、台湾で大ヒット後、ベニス映画祭、アメリカのアカデミー賞の候補作の選出対象になった力の入った作品です。プロデューサーの一人が、ジョン・ウー。監督はこの映画を作りたいが為に、先に 『Cape No.7』(2008年)を製作したと云われている Wei Te-Sheng(魏紱聖)。アメリカでは不評でした。あまりにも長いので、2時間半まで短くされましたが、「暴力のリアリズム」が鮮明で「台湾愛国主義」が見え隠れし、「色々と手を変えて繰り返される残酷な戦闘シーン、当時の武器の描写、戦闘方法の描写は、文句無くすごい」、けれど「延々と絶え間無い戦闘シーンは、観る事自体、堪え難い」、とね。『Cape No.7』(『海角七號』)がヒットしていなかったら、この作品は作られなかった。『Cape No.7』は、ラブコメディ映画。観ているだけで楽しくなります。どおりで、台湾映画史上、一番の人気映画(収益から)と云われています。第2次世界大戦中に、日本へ帰還させられた学校教師からの配達されなかった手紙を、相手の台湾女性に60数年後に送り届けようとする若者、アガ。地元の墾丁国立公園で、主人公が結成したロックバンドが日本人歌手中孝介(本人)の前座を勤めることになり、なんとか主人公含め老若男女7人メンバーを掻き集めるプロセスと、地元の郵便配達を手伝い始める主人公アガと、プロモーションを手伝う日本人の女性との恋が描かれています。恋の話自体は、時にじれったい、くらいの感じが残るのですが、台湾の伝統楽器を使った音楽がすごく良い、脇役たちが又良い、それは楽しい作品です。『Prince of Tears』(2009年)は、国民党に反抗する14万人もの“匪諜”と疑われた台湾人が、投獄され何千人も処刑された“白色テロ”を描いています。野心作ですが、力足らずで、主演のジョセフ・チャンも、持ち味が出せていない感じでした。しかしです、世間ではあまり評判にならなかった作品で、同じくジョセフ・チェンが香港のサイモン・ヤムを相手に堂々と互角を張っている、香港と台湾のギャング関係を描いた『Ballistic』(2008年)。チャン・チェン(張震)の美男お父様、張國富、が悪役で出ています。この映画は台湾の政治汚職の問題描写をしていますので、大変興味深く観賞出来る作品です。

中国本土の作品は、未だ失礼ながら模索中ですので、台湾映画界が中国語映画に貢献する機会はまだまだ多いはずです。金城武の作品が無い? 彼は、チャン・チェン、スー・チー、グイ・ルンメイ同様、ほぼ台湾国外の中国圏で主に活動しているようです。

バンクーバー新報:5月3日